転生したら推しの軍人様が「筋肉信者」になっていたんですが!? ~そして私は筋肉聖女~

転生したら推しの軍人様が「筋肉信者」になっていたんですが!? ~そして私は筋肉聖女~

last updateDernière mise à jour : 2026-01-06
Par:  霧原いとComplété
Langue: Japanese
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筋トレマシーンに押し潰されて死んだ私が転生したのは、ドはまり中のAI会話ゲームの世界だった! 折角だから推しの冷徹軍人を愛でようと思ったんだけど、なんか筋肉信者になってません!? 「大佐、待って、真面目な場面で脱がないで!!」 格好良い筈なのにお馬鹿可愛いAI軍人キャラと、前向き元気ヒロインが大活躍! 読むと元気がわいてくる! 楽しく笑えるほのぼの筋肉ラブコメ!

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Chapitre 1

第1話 推しのカイル大佐、いきなり筋肉布教してきた件

脳腫瘍と診断された後、白石紗季(しらいし さき)は二つの事実を知ることになった。

一つは黒川隼人(くろかわ はやと)との婚姻届が偽物だったこと。もう一つは実の息子――黒川陽向(くろかわ ひなた)もその事実を知っており、他人を母親として望んでいたこと。

この時紗季は自分の家族を捨て、全てを彼らに捧げた七年間が、まるで茶番だったことを悟った。

そこで紗季は三つのことを実行し、この薄情な父子の前から完全に姿を消すことにした。

一つ目は、一ヶ月前に予約していた結婚七周年記念のキャンドルディナーをキャンセルし、陽向の幼稚園のクラスLINEグループと、父子の健康のために入っていた数十の健康関連のグループから退会すること。

二つ目は、医師からストレステストを受け、特効薬を処方してもらい、海外まで移動できる体調を確保すること。

三つ目は、七年間連絡を絶っていた兄の白石隆之(しらいし たかゆき)に電話をかけ、遠くへ嫁いだことを後悔して、帰りたいと告げること。

――

「紗季さん、がん細胞が脳神経を圧迫しています。早急な決断が必要です」

消毒液の匂いが漂う病院の廊下で、医師の言葉が今も紗季の耳に響いていた。

全身を震わせながら、しわくちゃになった検査結果の用紙を握りしめた。

最近頭痛や嘔吐に悩まされ、時々鼻血も出ていた。

寝不足による単なる体調不良だと思っていたのに、検査結果は恐ろしい事実を突きつけてきた。

医師は治療方針を選択する必要があると言った。

手術をして五十パーセントの生存確率に賭けるか。

それとも保守的な治療を選び、投薬と化学療法で髪の毛は抜け落ちるが、あと数年の命を繋ぐか。

紗季はその五十パーセントという確率に賭けることが怖かった。

幼い頃から注射さえ怖がっていた彼女にとって、冷たい手術台の上で生死を分ける選択をすることは想像もできないほど怖かった。

しかし手術をしなければ、脳の腫瘍は大きくなり、苦しみながら死んでいくという残酷な現実が待っている。

紗季は目を閉じ、隼人のことを考えた。

彼女は隼人と結婚してもう七年になる。彼女は彼を愛していて、まだ長い間一緒に生活したいと思っている。

そして何より、二人は頭がよく、優秀な息子――陽向を一緒に育てている。

人生で最も大切な二人のことを考えると、勇気が湧いてきた。

彼女は立ち上がり、医師の診察室のドアを開けた。

「先生、決心しました。開頭手術の予約をお願いします」

医師は厳かな表情で言った。

「五十パーセントの確率です。怖くないのですか?」

紗季は微笑んだ。「怖くありません。夫と子供が私の側にいてくれると信じています。二人がいれば、何も怖くありません」

医師はゆっくり頷いた。

「分かりました。一ヶ月後の手術を予約しておきます」

紗季は病院を出て、急いで帰宅した。夫と子供の慰めと支えが欲しかった。

家政婦は隼人が会社に行ったと告げた。

紗季は急いで黒川グループへ向かい、社長室の前まで来た。

中に入る前に、男性の声が聞こえてきた。

「隼人、紗季にお前が美琴を秘書にしたことを知られたら、怒るんじゃないか?」

紗季は凍りつき、ドアの隙間から隼人の親友――青山翔太(あおやま しょうた)の姿をはっきりと見た。

美琴?

美琴!

この名前は彼女にとってあまりにも馴染みがあった。隼人が十年もの間、心の奥底に秘めていた初恋の人だった。

机に向かって座る隼人は目を伏せ、袖をまくり上げた。黒いシャツの襟元は少し開いていて、どこか冷たい既婚者の雰囲気を醸し出していた。

彼はいらだって言った。

「会社のことに口を出すな」

翔太は首をすくめ、苦い顔をした。

「まあね、俺はこの何年もお前の面子を立てて、紗季のことを奥さんって呼んできたけど、周りの人はみんな、お前たちが偽装結婚だって知ってるよ。それに婚姻届は俺が偽造したんだ。ハハハハ!」

これを聞いた紗季は、顔が真っ白になり、その場で凍りついた。

彼女は......何を聞いたのだろう?

隼人との結婚は......偽装だったの?

隼人はオフィスのドアに背を向けて座り、ドアの外に人が立っていることに全く気付いていなかった。

翔太は好奇心に駆られて尋ねた。

「隼人、なんで黙ってるの?今美琴が戻ってきたんだから、早く紗季と別れればいいじゃん?当時紗季がしつこく迫って、お前が酔っ払ってた時に誘惑して妊娠したから、子供の戸籍のために仕方なく偽装結婚したんだろ。その結果、美琴が傷ついて出て行って、今やっと戻ってきたわけだし」

紗季は息を飲んだ。

激しい頭痛が襲ってきて、紗季は口を押さえ、必死に吐き気をこらえた。

あの夜、バーに翔太も確かにいたはずなのに!

自分は隼人にお酒を勧めてなどいなかったのに、隼人はビジネスライバルに薬を盛られていた。翔太はそれを分かっていたはずだ。

自ら「解毒剤」になろうとして、隼人とホテルへ行ったのだ。

なぜすべての責任を自分一人に押し付けるのか?

翔太は軽く笑い、からかうような口調で言った。

「お前はいつ美琴と結婚するつもりだ?当時彼女は重い心臓病にかかって、お前の足手纏いになるのを恐れて去った。紗季にその隙を突かれたんだろう?美琴はもともとお前の妻になるはずだったのに!」

隼人は鋭い視線で翔太を見つめた。

その目は氷のように冷たく、警告が伝わってくる。

「俺と紗季には陽向がいるんだ......」

紗季は全身を激しく震わせ、立っているのがやっとだった。

彼女は彼らの会話に吐き気を催した。聞き続けられなくなり、そのままトイレに駆け込んだ。

そのため隼人が言いかけていた言葉を聞き逃してしまった。

紗季は洗面所で激しく嘔吐した。

残酷な真実に吐き気を催したのか、脳腫瘍による生理反応なのか分からなかった。

女性社員が入ってきて驚き、急いでティッシュを差し出した。

紗季は目を赤くしてティッシュを受け取り、泣くよりも醜い笑顔を作って言った。

「ありがとうございます......隼人には私が来たことを言わないでください」

彼女は振り返り、よろめく足取りで会社を出て、まるで生ける屍のように街をさまよった。頭の中では、隼人との初めての出会いが思い返されていた。

7年前、彼女は海外でも有名なデザイナーで、兄――隆之のジュエリー会社で重要なポジションを担っていた。その頃、隼人とは何の接点もなかった。

ある出張の際、紗季がホテルを出たところで突然スカートが裂けてしまったのだ。

彼女が露出してしまいそうになり、ひどく恥ずかしく慌てていた時、隼人が高級車から降りてきて、彼女の前に歩み寄り、スーツの上着を差し出した。

「腰に巻いてください」

適切な援助が、見知らぬ環境での彼女の窮地と不安を一瞬で解消した。

彼女は顔を上げると、かっこいい顔に一目惚れした。

それ以来紗季は彼のことが忘れられず、隆之を通じてコネを作り、あらゆる手段を尽くして隼人との仕事上の接点を作り、積極的に追いかけた。

隼人の心の中に忘れられない初恋相手がいることを知りながらも、彼女は決して諦めなかった。

その後、酒の席で偶然会ったことがきっかけとなって二人は親しくなった。紗季が妊娠したことで、自然な流れで結婚することになったのだ。

紗季は新婚初夜のことを覚えていた。彼女は隼人に尋ねた。

「私は責任を取れとは言わなかったのに、なぜ私と結婚してくれたの?」

いつも冷淡な隼人が、初めてあんなに真剣に彼女を見つめ、ゆっくりと答えた。

「お前に、そして俺たちの子供に、家族を与えたいんだ」

この一言のために、紗季はこの結婚に全てを捧げた。彼女は隆之の強い反対を押し切って自身のキャリアを捨て、国内に留まり、妻として母として全力を尽くした。

しかし今、彼女が全てを捧げた結婚は最初から最後まで偽りだったのだ!

隼人は最初から彼女を本当の妻とは見ていなかった!この7年間、彼の心には別の女性がいて、彼女とは夫婦のふりをしていただけだった!

紗季の心はまるで血を流すように痛んだ。最初から最後まで完全な笑い物だったことを痛感した。

彼女は決心した。

一ヶ月後、もし手術が成功して生き延びたら陽向を連れて出て行こう。

隼人は陽向のことを遠慮する必要はない。好きな人と結婚すればいい!

子供のことを考えると、紗季に少し力が戻ってきたような気がした。

彼女は家に駆け戻り、階段の入り口まで来たところで、陽向が執事――森下玲(もりした れい)と話しているのが聞こえた。

「パパとママの婚姻届が授与されてないって、ママが知ったらどうなると思う?」

陽向の幼い声が聞こえてきた。

紗季は目を見開き、その場に立ち尽くした。

玲は優しく笑って答えた。

「仕方がないですよ、坊ちゃま。ご主人様は奥様のことをお好きではないですからね、それはご存知でしょう」

陽向は子供らしく鼻を鳴らした。

「実は僕もママのこと、あんまり好きじゃないんだ。僕は美琴さんの方が好き!すっごく優しいんだよ。ママが僕をパパの会社に連れて行くたびに、美琴さんはいっぱいおいしいものとか、面白いものをくれるんだ。ママみたいに、お菓子を食べ過ぎちゃダメだとか、勉強しなさいとか言わないし。うるさくないんだよ!美琴さんがパパと結婚できたらいいのにな!」

紗季は掌を強く握りしめたが、気を失いそうになった。

育てた実の子供までもが、隼人と同じように、彼女にこれほど冷たく無情だとは予想していなかった。

紗季は過去の「母子の愛」「夫婦の睦まじさ」という温かな情景を思い出したが、今となってはそれが全て夢だったと感じた。

これは甘美に見えて、実は恐ろしい悪夢だった。

当時、隆之が結婚のことに強く反対したのは、彼女が苦労することを心配してのことだった。彼女は隆之の言葉に耳を傾けるべきだったのだ。

もし隆之が隼人のしたことと陽向の態度を知ったら、きっと怒り狂って刃物を持って殺しに来るだろう。

紗季は胸の痛みで目を瞬かせ、黙って階段を降りた。

彼女は夫と子供のために死を恐れずに、手術台に横たわることを決意したが、今ではその支えとなっていた希望も完全に粉々に砕けてしまった。

彼女はリビングに来て、電話をかけた。

「お兄ちゃん、隼人と離婚したい。家に帰ってもいいかな?」

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第1話 推しのカイル大佐、いきなり筋肉布教してきた件
 転生したら、推しの軍人様が「筋肉信者」になっていた。 ――何を言っているか分からないと思うけど、私にも分からない。◇ ◇ ◇ 私は大学三年生のコハル。ちょっぴりオタク気質で、気になったものはとにかく挑戦、何でも前向きに頑張りたいタイプの女! そんな私は最近、AI会話ゲームにドはまりしている。これはお気に入りのAIキャラクターと一緒に、様々な世界を作り上げたり冒険したり出来るゲームだ。  昔から空想癖のある私にとって、こんなに楽しい世界は無かったのだ!「おっとっと、今日もログイン、ログイン!」 操作したスマホの画面にパッと現れたのが、私の最推しカイル・レオンハルト大佐。彼が登場するのは、戦場を舞台に過酷な状況を乗り越えていくお話なんだけど、とにかくこの大佐が最高。    冷徹、寡黙、任務最優先のクールな男!   高身長、銀色短髪、イケメン、そして筋肉!! これまでは細身の王子様タイプにときめくことが多かったんだけど、何故かこのゲームでは、カイル大佐が私のハートにドストライクだった。つまり、私は筋肉に目覚めたのだ。 ポチポチとチャット欄に私は会話を打ち込む。『大佐、おはようございます! 今日はトレーニングに行ってきます!!』 『そうか。良い心がけだ。戻ってきたら、次の任務が始まるぞ。気を引き締めて行ってこい!』「あーっ、推しの一言が染み渡るううぅ! やる気100万倍出ちゃうぅ!」 このままゲーム内の会話を続けたい気持ちもあるけれど、そこはぐっと我慢だ。何故なら、今日の私には大事な使命がある! ……そんな訳で私は、人生で初めてのスポーツジムへとやって来た。トレーニングウェアに着替えて準備万端。  そう、私は大佐への憧れが燃え上がった結果、遂に現実世界でも筋肉への道を歩み始めたのだ!   (カイル大佐、待っていてください。筋肉の強さは心の強さ。私も素晴らしい筋肉を手に入れて見せま――)「おーい、倒れるぞ!!危ないっ!!」「ひょえ?」 ガッシャーン、と大きな音がジムのフロアに響き渡る。なんと筋トレマシーンが私の頭上から落下してきたらしい。  そして私は死んだ。 ……嘘ぉ!?◇ ◇ ◇ 私はこうして確かに死んだのだが、何故か大きな声に叩き起こされた。「いつまで眠っている。起きろ!!」「ふぇっ??」 驚いて目を開ける
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第2話 筋肉聖女なんて嫌ですよ!?
「さあ、説明は以上だ。敵が密集している地帯へ移動するぞ!」「いえ、待ってください、大佐」「なんだ、怖じ気付いたのか?」「ある意味怖いですよ、半裸でキメ顔の貴方が!!」 そう、カイル大佐は上半身裸だった。  任務の説明の途中で突然上着を脱ぎすてたまま、私のいかなる説得にも応じず筋肉を見せつけ続け、そうして今もこうして堂々と立っている。 確かにナイス筋肉だ。左右均等に盛り上がる大胸筋、腹直筋の彫刻のような割れ目、腕を少し曲げるだけで盛り上がる上腕二頭筋。  ゲーム時代から彼の立ち絵にこっそり見えていた逞しい腕を堪能したことはあったが――実物は情報量が多すぎる。 いや、本当に。情報量が。多すぎる。「……っ」 思わず目をそらす。正直、眩しすぎてまともに直視できない。視界がうるさいのだ。この状態で何の話をされても、筋肉以外が頭に入ってくるはずがない。「移動するなら、とにかく着てください! 服を!!」「必要ない。我々に必要なのは、任務遂行への固い意思だけだ!」「ああ、その決め台詞をこんなどうでもいい場面で!」 私は頭を抱えた。カイル大佐はふざけているわけではなく、本気だ。  もともと寡黙で実直、融通が利かないところもあったが――今はそこに“筋肉信者”という属性が追加されてしまっているらしい。「大佐っ……!」 とはいえ、私はこのゲームを限界までやり込んだ女だ。理不尽なイベント分岐やAIの変な行動パターンも読み切ってきた。  そんな私なら、この“半裸大佐”を正しいルートに戻す一手を打てるはず。(考えろ、考えるんだ、私。――そうだ!!) 熟慮の末、天才的なアイデアが舞い降りた私は、気合で悲し気な表情を作った。そして、しんみりと大佐に語りかけたのだ。「大佐……、本当に、このままで良いのですか?」「どういうことだ?」「筋肉が……筋肉が、泣いています……」「何っ!? 急に何を言い出すんだ」「大佐には聞こえませんか。筋肉の悲しい泣き声が」「筋肉の、泣き声……!?」「そうです。まだ出番ではないのに晒されて……これでは本番の戦いで、実力を発揮できません!」「……!」 カイル大佐は愕然とした表情を浮かべた。その目が「そんなことが……!」と言っている。やっぱり真面目すぎる性格は健在だ。「……確かに、コハルの言う通りだ」    そう呟く
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第3話 大佐、スライムの筋肉って何処ですか!?
 あれから移動すること数十分、私たちは初任務の現場に到着した。ちなみに大佐は服を着ている。道中で5回くらい脱ぎかけたけど、私の決死の説得のおかげで何とか着衣を保っている!「ここが敵モンスターの居る場所ですね、大佐!」「そうだ、コハル。油断するなよ」 初任務、つまりこれはチュートリアルみたいなものだ。AI会話ゲームの展開は自由で無限大だが、この初期戦闘だけは大体内容が固定されている。「拠点確保のために、ここにいるモンスターの群れを倒すんですよね!」「その通りだ。コハルは魔法を使えると聞いている。君の戦闘能力を見せて貰おう!」「……!」 さらっと重要な情報が出た。どうやら、私は魔法使いタイプらしい。折角異世界転生したのなら、魔法を使ってみたいというのは全オタクの夢だと思う!   私はやる気に満ちあふれながら答えた。「お任せください!」 そして頭の中では冷静に、ゲームで何度も経験したチュートリアルイベントについて思い出す。 出現モンスターはランダムに数種類。フィールドラビット、オオネズミ、グラススネーク、ハーベストバードなどの動物系が主体だ。そこに少し強めのゴブリン、ゴーレム、ピクシーなどが何体か追加されるのが基本構成となっている。 重要なのは、モンスターの構成を最初にきっちり把握することだ。  カイル大佐の戦闘能力はかなり高い。強めのモンスターを彼に対応してもらい、自分は雑魚モンスターを倒す補助的役割をこなすことが出来れば、このチュートリアルはかなり安全にクリアできるのだ! ――ああ、何か今の私、凄く転生者っぽい!!「さあ、なんでも来いッ!!」 私の言葉を待ち構えていたかのように、草原の向こうから土煙を上げて敵が迫ってくる。「モンスターの構成は――って、ええっ!?」 だが、現れたのは様々な種族の入り混じるモンスターの群れ――ではなく、ぷるぷると揺れるスライムの大群だった。「ちょっと可愛い……って、違う! え、なに、なにあれえええ!?」「さあ行くぞ、コハル!!」「いや、待ってください、大佐! 違和感を覚えませんか!? スライムですよ、ぷるぷるの!! オールスライム!」「ああ、筋肉が足りていなくてけしからんな! 行くぞ!!」「何がですか!?」 私の突っ込む声は、スライムの大群襲来による混沌にかき消された。  しかしともあれ
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第4話 異世界転生がばれました!
 初任務を終えた私とカイル大佐は、買い出しの為に近くの町へと向かっていた。「お買い物、お買い物っ。ちょっと楽しみ!」 初めてのファンタジー世界の町ということで、私はとっても浮かれている。きっと見たことも無いようなものが沢山あるに違いない。今からワクワクしてしまう。「買い出しも任務の一環だぞ、コハル」「でも、初めての町なんですもの!」「町が初めて? 君は一体、どんな暮らしをしてきたんだ?」 大佐の疑問に私はギクッとした。しまった、これは失言だった。確かに生まれてこの方、町に出たことが無い人間なんて珍しすぎる!「あ、あー、ええと……」 脳をフル回転させて言い訳を考える。どうしよう、ここで変な生い立ちでも設定しようものなら、きっとまた筋肉聖女とかよく分からない伏線へと繋げられてしまう。  うろたえている私に、大佐からさらに爆弾が投下された。「もしかして、君が言っていた異世界転生という奴と関係が?」「ぶはっ!!」 突然の確信をつく言葉に、私はむせた。「な、なななな、なんですか、突然!? 異世界転生ってナンデスカ??」「どうして片言になる。君が自分で言っていたんじゃないか。初任務の日、寝惚けた後に目を覚ました、その瞬間に」「ひえっ!? ま、まま、まさか、そんなこと……」 私は盛大に狼狽えながらも、必死に思い出す。  目を覚ました直後? たしかあの時と言えば……。>私のオタク的頭脳はすぐに結論をはじき出す。 >「異世界転生だ!!」(アウト――!!) 言っていた。完全に言っていた。「くっ……。でも、あんな一瞬の発言、よく覚えていましたね!?」「当たり前だ。君の言ったことはすべて覚えている」「きゅん! いや違う、ときめいている場合じゃない!! 違うんです、大佐。あの、ええと、異世界転生というのはですね――」 頑張れ! ここから最高の言い訳で巻き返せ、私のオタク的頭脳! プレイヤースキルを見せつけてやれ!!「筋トレの一種です!!!!」「何っ、筋トレだと!?」 ああ、私の馬鹿。バカバカ。ここまでの筋肉バカ騒ぎ展開に引っ張られて、こんな言い訳しか出てこなかった。「あ、はい、筋トレです……。いやでもあながち、間違ってないか……。筋トレマシーンに潰されて死んだんだし……」「死ぬほどの筋トレを!?」 カイル大佐が私を畏敬の眼差しで
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第5話 聖バーベル教会に拐われました!
 私は罠にはまって強制転移させられた後、どうやら気を失っていたらしい。「んっ……。ここは……」 目を覚ますと、見知らぬ祭壇の上に居た。慌てて周囲を見渡すと、壁には『歓迎☆筋肉聖女様』と書かれた垂れ幕がかかっている。(………………すうっ) 私の意識が現実逃避のために遠のきかけたが、突然開いた扉がそれを許してはくれなかった。「お目覚めになられたのですね! 筋肉聖女様!!」「違いますがぁ!?」 いけない。反射的に飛び起きて否定してしまった。取り合えず様子見で肯定しておくことも出来たのに! いやでも、自分が筋肉聖女であることを肯定はしたくないな!?「またまた、ご謙遜を!」「いや本当に違うんですよ。というか、あなたたちは誰ですか! 私を元居た場所に返してください!」「よくぞ聞いてくださいました!!」 待ってましたと言わんばかりの返答に、私は自分の質問を大いに後悔した。しかし後悔したところで、もう遅い! 扉からドヤドヤと数十人――下手すると百人近い集団が入り込んできて祭壇を取り囲む。「ひえっ!?」 全員白いローブを纏っているのだが、その袖はなく完全に上腕二頭筋が露出している。そして胸元もやたらと開いている。もはやローブの意味があるのか、私には全く分からない。「我ら!」「「「聖バーベル教会!!」」」「筋肉聖女様をお迎えに上がりました!!」「分かりました、全員、馬鹿ですね??」 号令と共に”聖バーベル教会”と名乗った彼らは、思い思いのマッスルポーズを披露していた。そこは統一しないスタイルなんだ……。  ああ、いけないいけない。思考がまた現実逃避を始めかけていた。「とにかく、あなたたちが誰であってもです! 私の居場所はここではありません。そもそも誘拐は犯罪です!!」「しかし、我々の聖典には書いてあるのです。目覚めの時、筋肉聖女が降臨され、我々に正しき筋トレの道を示してくださるだろうと――」「筋肉聖女の役割それで良いの!? ジムトレーナー的な??」「長年、我々は筋肉聖女様を探し求めておりました……。そしてついに先日! 軍の部隊に筋肉聖女様が降臨されたとの噂を聞きつけ、急いでお迎えに上がったのです!」「待った!! 何ですか、その噂って!?」「えっ。何を仰いますか。町は筋肉聖女様の噂でもちきりですよ! 立ち寄った軍人たちが自慢していったと
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第6話 怪しい教祖が出てきました!!
「何者だっ……!!」 突然の派手な侵入者の登場に、聖バーベル教会の信者たちはどよめく。「王国正規軍・第七師団大佐、カイル・レオンハルトだ。私の部下を返してもらおう!」 カイル大佐は、単身でこの場に乗り込んできているようだった。けれど全く臆する様子はない。私は頼もしすぎる味方の登場に、思わず祭壇の上からブンブンと手を振る。「私はここですっ! 来てくれたんですね、大佐っ!!」「当たり前だ! すぐに戻って買い出しの続きだぞ、コハル!」「はいっ!」 ああ、やっぱり私の推しは最高に格好良い! 半裸だけど。いや、今回に限っては、爆風で上半身の服が吹き飛んだだけだから――多分。「何をふざけたことを! これから聖女様は、我々とスクワットの儀をおこなうのだ!! 邪魔をするな!」    私にとって全く身に覚えのない予定を口にしながら、信者数名が大佐に襲い掛かる! 宗教団体の信者とはいえ、見た限り、ここにいる全員がエリートマッスルだ。流石の大佐でも、百人の筋肉が相手では数に押されてしまうかもしれない。「大佐、危な――」「ふんっ!!」 ……そんな私の心配は全く必要なかったようで、大佐が重い拳を振りぬいた衝撃波で、向かっていった信者たちは全員吹き飛んでいった。  え、なに、今のは魔法?「違う、鍛えられた筋肉の力だ!!」「地の文に返事しないでくださぁい!」「何を言っているんだ、コハル? というか、君、全部喋ってたぞ」「なんですって……!?」 私は興奮のあまり、思いが全部声になって漏れ出ていたらしい。いけないいけない、気を付けないと!  そんな風に私が気を落ち着けている間にも、大佐はこともなげに信者たちをなぎ倒していく。「とにかく、助かりそうで良かった」 この調子なら数分もかからずに、カイル大佐は祭壇の所まで助けに来てくれそうだ。  しかし、ほっとしたのも束の間、建物内に突然エコーがかった声が響き渡った。「おやおや、随分と好き勝手に暴れてくれたようだねぇ」「だ、誰っ!?」 声の主は、私が祀られている祭壇の傍らに現れた。先程までは居なかった筈なのに、いつやって来たのか、全く分からなかった。「「「教祖様!!!」」」「教祖……??」「そうです。お初にお目にかかります、聖女様。僕はこの聖バーベル教会の教祖、ビルド・マッソ」 聖バーベル教会の教
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第7話 私はこの世界が大好きです!!
「馬車っていうのも、なかなか素敵ですねぇ」 私とカイル大佐は、のんびりと馬車に揺られながら最初にいた森へと帰還中だ。聖バーベル教会の建物を出てから聞かされたのだが、私は随分と遠い場所まで魔法で転移させられていたらしい。「そういえば大佐、どうして私の居場所が分かったんですか?」 私は素直な疑問を大佐にぶつけてみる。彼は確かに強いが探索魔法などは習得していなかった筈だ。「弟子たちが教えてくれたのだ」「ふぇっ?」「以前に筋トレ指南したスライムたちだ。彼らの情報網は広い。コハルを探していると言ったら、すぐに居場所を見つけてくれた」「えええっ、スライムちゃん、凄すぎ!」「彼らも一緒にコハルを助けに行くと言っていたんだがな」「そうなんですか、何か嬉しい! あれ、でも、大佐お一人ですよね」「ああ。君の身に何かがあってからでは遅い。全速力で駆けてきた結果、スライムたちを置いてきてしまったようだ」「全力疾走で来てくれたんですか!? 徒歩で?」「当たり前だ。君の為だからな」「え、えへへ、ありがとうございます」「構わない、上官として当然のことをしたまでだ」 カイル大佐の優しさが身に染みる。本当に全力で助けに来てくれたのだと実感して、胸が熱くなった。「それから、コハル。君と離れる前に話していたことについてだが」「へっ……? あ!!」 そうだ、すっかり忘れていたが、異世界転生のことが大佐にもばれてしまいそうなんだった。時間はあれからたっぷりあったが、当然、上手い言い訳なんて思いついていない。「あの、その、あれはその……!!」「流石の私も、異世界転生というのが、筋トレではないことは分かる」「ひうっ……!」 ごくごく冷静なカイル大佐の言葉に、私は硬直した。そ、そうですよね、舐めた言い訳してすみませんでした! 大佐は真面目で実直な性格だ。嘘を吐いたことは、流石に咎められるかもしれない。  私が困り果てて俯いていると、ぽん、と頭の上に温かい掌の感触がした。「え……」「だが、言いにくいことなら、言わなくて良い。君が話す気になるまで待つ」「大佐?」「だから、その、そんなに暗い顔をしないでくれ。コハルは笑っていた方がいい。君が居なくなっていた間、ずっと何か落ち着かず物足りなかったのだ。……君が戻って来てくれて良かった」 ぶわっと、自分の顔が熱くなる
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第8話 わくわく筋肉クッキング!
「さあ、調理を開始する!!」「あの大量の買い出しは、村での炊き出しの為だったんですね、大佐!」 朝の光が差し込む頃、私とカイル大佐は村の広場に立っていた。中央にはずらっと調理道具が並べられ、簡易的なキッチンが出来上がっている。今日は王国軍による炊き出しの日だ。「大佐は料理できるんですか?」「勿論だ。食は筋肉に通じるからな!」「ううん、正論なだけに頷くしかない!」 周囲には、遠巻きに見守る村人たちの姿があった。彼らは先日討伐した、スライム軍団に苦しめられていた人たちだ。今は村も平和になったはずだが、本格的な復興には活力が必要だろう。 美味しい料理は元気の源。彼らにもぜひ元気になって貰いたいという訳で、今回の炊き出しが企画されたのだ!「まずは料理の為の精神統一の儀を始める」「早速、私の知らない工程が出てきましたね」「食への感謝は、料理の基本だぞ、コハル」「今日は微妙に正論で攻めてくる感じですね、大佐!」 私の言葉を聞いているのかいないのか、大佐はすっと目を閉じて手を組み精神統一を始めた。私は真似をするべきか悩みつつも、彼の姿から目を離せないでいた。 ――ああ、やっぱり何度見ても、顔が良い!! しみじみとそう思っていた、その時だった。「はあっ!!!」 大佐の低い気合のこもった声と共に、彼の上半身の服が弾け飛んだ。「なんで!?!?」 今日はちゃんと着ていたのに!! いや、もう、着ていたことが服が弾ける伏線でしかなかったの!?「よし、精神統一はこれ位で良いな。では、早速調理を――」「いやいやいやいや!! 着て! 着てください!! 色んな意味で、今回に限っては衛生的にも大問題ですから!!」「安心しろ、コハル。流石の私も、このままの姿で料理をする気はない」「あ、ああ、そうですよね、良かった。安心しました。流石の大佐でも――」 ほっと胸を撫でおろす私の視界に入ったのは、おもむろにフリフリのエプロンを取り出す大佐の姿だった。そして彼は、上半身裸の上にそのままためらいもなくエプロンを――「まったあああああ!!」「なんだ、コハル? このエプロンに何か問題でも?」 私の制止は間に合わず、目の前には半裸フリフリエプロン姿のカイル大佐がいる。ああ、どうしようこれ。本当にどうしようこれ。「問題しかないですよ! 半裸エプロンですよ!? 半裸エプ
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第9話 お肉泥棒は許しませんよ!
「マッチョダイと野菜のシチュー、大好評ですね、大佐!」「ああ。これで村人たちも、良い筋肉がつくだろう」 軍の炊き出しは大盛況で、村の広場は沢山の人たちで賑わっていた。料理を配り終えた私とカイル大佐は休憩をしていたのだが、少しすると大佐が立ち上がる。「あれ、大佐、どちらへ行かれるんですか?」「そろそろデザートの準備をしようと思ってな」「わあ、良いですね! 果物とかですか?」「いや、筋肉ステーキだ!!」「デザートですよね??」「筋肉こそが、最高のデザートだからな!」 大佐は高らかにそう宣言して食材を取りに行こうとしたのだが、その腕を村の子供たちが掴む。「わーっ、すっげー!筋肉ムキムキだ!」 「筋肉大佐、持ち上げて持ち上げて!」 「俺たちに筋トレ教えてー!!」 「私には、マッスルポーズ教えてー!」 無邪気な様子の少年少女たちが、きゃっきゃと大佐を取り囲んでいる。「うむ! 君たち、いい筋肉だな! 遊んでやりたいのは山々だが、まだ私には料理の準備が――」 大佐は満更でもない様子だったが、そこは任務第一の真面目な男、デザートの準備が気になっている様子だった。  私はくすくすと笑いながら、彼らに声をかける。「ふふふ、良いですよ! 大佐、彼らと遊んであげていてください。準備なら私が進めておきますから。倉庫にお肉を取りに行けば良いんですよね?」「わーいっ!」 「お姉ちゃん、ありがとー!!」 「お姉ちゃんも、後で遊んでね! お花の冠作ろう!」 「私は、マッスルポーズ教えてあげるね!!」「良いのか? コハル、すまない、助かる。使う予定の肉には筋肉マークの目印があるので、すぐにわかるはずだ」「はーい!」 大佐と子供たちに笑顔で手を振って、私は歩き出す。今日は炊き出しの材料を置くために、村の倉庫を借りていたのだ。目的のお肉もそこにあるはず。 倉庫は広場の裏側だが、距離としては殆ど離れていない。私はすぐに辿り着いたのだが、入口に怪しい人影を見つけて固まった。その人物は黒いローブを着てフードで顔を隠し、何やら大きな荷物を抱えている。「ひゃっ……!? え、だ、誰ですか……?」 今日はこの倉庫は軍が借りているので、村の人たちは近づかないようにお願いしていたのだ。だからこそ、余計にこの不審者に警戒してしまう。「ふっふっふ」 私の問いかけに、
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第10話 究極完璧美少年襲来!!
 今の状況を整理しよう。燃えた肉を地面に座りながら食べる司祭、それを見つめる私、それを更に見つめるビルド・マッソ。まさに地獄の三すくみ状態!「……いや、本当にお前達、何してるんだよ」 何処かあきれ果てた様子で、ビルド・マッソが問いかけてくる。私が口を開くより前に、真っ先に答えたのは司祭さんだった。「教祖様! 私は! 肉を食べています! 一緒に食べましょう!!」 もりもり肉を食べる司祭さんに、私は慌てた。「ああっ、沢山食べちゃ駄目ですよっ。それは炊き出し用だって言ってるでしょう!! ちょっと! ビルドさん!! この人、あなたの仲間でしょう、何とかしてくださいよっ」「無理だ。こいつが人の話を聞くと思うか?」「仲間相手でもそうなのぉ!?」 私は頭を抱えながら唸ったが、すぐに我に返った。違う違う、お肉も勿論大事だけど、それ以上に彼らがここに居ることが大問題なのでは??「あの、あなたたちこそ、ここで何しているんですか!? 今日は村の炊き出しをしていたんですよ!」「くくく……、勿論、知っている。僕は常に転生者の行動を見張っているのだからな。ちなみに村人に紛れて食事は美味しく頂いた。三杯おかわりした」「くっ――、結構食べてる……、全然気が付かなかった……!」「腹も膨れたしそろそろ帰ろうかと思っていたら、ゴリーノがいなくなったので探していたのだ」「ゴリーノって司祭さんの名前ですか? え、というか、本当に今日は炊き出しを食べに来ただけ……?」「そう。そのつもりだったんだがな」 ふう、とビルド・マッソは優雅に息を吐くと、不敵にニヤリと笑った。「あの筋肉大佐がいないときに、お前と出会えたのは運が良かった。この前は、話の途中で邪魔されてしまったからな」「……っ、あなた、一体何者なんですか!? 何を知っているの? まさか、あなたも私と同じ転生者??」「馬鹿を言っちゃいけない。一つの世界にプレイヤーは一人だけ。そうでなくては、”ゲーム”の”AI”が壊れてしまう。……そうだろう?」「――!!」 私は静かに息を飲む。やっぱり、この人はかなり詳しくこの世界のことを把握している。ここがゲームの世界で、AIがベースであることまで。「気づいていたか? 転生者、コハルよ。この世界はお前の無意識によって、絶えず改変を繰り返している」「えっ、無意識? それはどういう
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